電車に乗った男
ようこそ砂漠cafeへ
晴天凪です。
ここには稀に、過去から来た者が訪れる事があります。
彼が現れたのは何日も降り続いた雨がようやくやんだ夜のことでした。
その日は彼以外誰もいませんでした。
私「いらっしゃい」
男「ようやくやんだね」
私「季節の変わり目というやつにはありがちな長雨だよね」
男「収穫祭の後でよかったよ」
私「まだ遠くで雷が鳴ってる」
男「アナベルリーをみなかったか?」
私「あんたの彼女?探しているの?」
男「もうずいぶん長い間ね」
私「アメリカ人だね。ボルチモアから来たんだろ?」
男「なぜわかるんだ?」
私「詩が好きなのでね。あんたの詩、最高だよ」
And the stars never rise,but I feel the bright eyes
Of the beautiful ANNABEL LEE
男「ありがとう。だが、今は遠慮してくれ。 悲しくなるから」
私「あんたの時代の酒はないけど、珈琲をどうぞ」
男「ありがとう。ここじゃあ俺はアル中ってことになってるんだってな」
私「学者連中が言ってるだけだ。気にしないでくれ。酒の数は揃ってるから欲しけりゃ言ってくれ」
男「いや、珈琲でいい。・・旨い」
私「旅の途中かい?」
男「ああ。メリーランドからボルチモアへ。本当はニューヨークへ行く予定だったんだが」
私「アナベルリーなら電車に乗ったよ」
男「何処の?いつ?」
私「地下につながる階段がある。そこを降りたら地下鉄に出る。彼女はそれに乗った」
男「地下鉄?鉄道が地下に?本当か?」
私「本当さ。今の時代は地下に鉄道が走っているんだ」
男「本当にアナベルなのか?」
私「必ず会えるさ」
男「何処へ向かった?」
私「あんたの今行こうとしている所へ」
男「彼女はどんな感じだった?」
私「さすがにあんたが惚れるだけのことはあるね。うつくしかったよ。顔色は蒼かったけど、心になにか温かいものを持っている顔だった」
男「いそがねばならん」
私「もう行くのかい?」
男「俺の顔色はどうだい?」
私「わるくない」
男「Thanks!」
私「グッドラック!」
男「ああそれから、俺はアル中じゃないぜ」
私「わかってる。あんたの小説、もっとたくさん読みたかったよ」
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